「若いうちは貯金より経験にお金を使うべき」
SNSでそんな言葉を見て、月5万円コツコツ貯めている自分が損をしているような気がしていませんか?
実は「貯金しないほうがいい」という主張には、正しい部分もあれば危険な誤解も含まれています。すべての人に当てはまる正解はなく、答えを決めるのは「今の自分の状況」です。
本記事では、貯金をゼロにすべきかどうかの結論をお伝えします。さらに貯金を優先すべき人・投資や自己投資に回していい人の判断基準、よくある疑問への回答まで、1級FP技能士の私鬼塚が解説します。自分に合った正解を、この記事で見つけてみてください。
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貯金しないほうがいいは本当?まずは結論と判断基準

同じ「貯金しないほうがいい」という言葉でも、手元にいくら現金があるかで受け取り方は変わります。ここでは、判断の土台となる基準について見ていきます。
貯金ゼロは避けるべき
「貯金しないほうがいい」という言葉をそのまま受け取り、手元の貯金までゼロにしてしまうのは避けましょう。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査2025年」によると、単身世帯の金融資産保有額は平均919万円、中央値130万円でした。一方で、金額無回答を除く単身世帯のうち、金融資産を保有していない世帯の割合は、全体の約30.8%にあたります。
20代でも例外ではありません。2025年調査をもとにした集計では、20代単身世帯の金融資産非保有割合は33.2%です。若い世代であっても、将来への備えや運用目的の金融資産を保有していない人が一定数いるfi状況です。
貯金がない状態では、病気やケガによる医療費、家電の故障、引っ越し、収入減少、突然の失業などに対応しにくくなります。投資や自己投資にお金を回すのは理にかなっています。ただし、それは最低限の生活防衛資金を確保したうえで考えるべきでしょう。
生活防衛資金までは貯金を優先するfin
最低限確保しなければならないのが「生活防衛資金」です。
生活防衛資金とは、急な収入減・失業・病気などの万が一に備えた、すぐに引き出せる現金のバッファーを指します。FPが推奨する目安は「生活費の3〜6ヵ月分」です。雇用が安定している会社員は3ヵ月分から、フリーランスや収入が不安定な人は6ヵ月分以上が目安になります。
2025年4月1日以降に自己都合で退職した場合、原則として7日間の待期後に1ヵ月の給付制限があります。受給までの生活費を現金で賄える準備が必要です。
一人暮らし水準の月の生活費を16〜17万円とすると、3ヵ月分で45〜51万円、6ヵ月分で90〜102万円が目安です。実家暮らしで支出が少ない場合でも、将来の独立・転職を見据えて一人暮らし水準で試算しておくと安心できます。

この生活防衛資金は、普通預金・ネット銀行の高金利普通預金など、すぐに出金できる場所に置くのが大原則です。
余剰資金は投資や自己投資も選択肢になる
生活防衛資金を確保できたあとに残る余剰資金は、貯め続けるだけが正解ではありません。余剰資金とは「すぐには使わない・急な出費でも崩す必要がないお金」を指します。この資金を目的やリスク許容度に応じて、投資や自己投資に振り向ける選択肢があります。



リスク許容度とは、投資でどの程度のリスクを引き受けられるかを示す考え方です。
余剰資金の使い道は大きく2軸に分かれます。ひとつは、資産を増やすためにNISAで長期投資をすること。もうひとつは、収入を増やす・キャリアの可能性を広げるために、資格・スキル・経験へ自己投資をすることです。
余剰資金を使う前に「生活防衛資金が揃っているか」「近い将来に必要な支出がないか」の2点を考慮したうえで自己投資するかどうかを判断しましょう。
貯金・経験・投資のバランスで考える
「貯金だけ」でも「投資だけ」でも正解にはなりません。大切なのは、日々使うお金、近い将来に使うお金、当面使う予定のないお金を分け、目的に応じて配分することです。お金の使い道は、以下の3つの区分で整理するとわかりやすくなります。
| お金の区分 | 位置づけ | 推奨する手段 |
|---|---|---|
| 日々の生活に必要なお金 | 生活費・急な出費への予備費 | 普通預金など、すぐ使える預貯金 |
| 近い将来に使う予定のお金 | 車の購入・旅行・教育費など、使い道が決まっている資金 | 普通預金・定期預金など、元本割れを避けやすい手段 |
| 当面使う予定のないお金 | 老後資金・資産形成・大きな病気やケガに備える資金 | NISAなどを活用した長期・積立・分散投資、iDeCoなどの老後資金向け制度 |



以上のお金の配分は、生活防衛資金が貯まったタイミング・昇給・ライフイベントの変化に合わせて見直しましょう。
貯金と投資の割合については「【FPおすすめ】貯金と投資の割合を決める方法!平均値や注意点も紹介」の記事を参考にしてみてください。


貯金しないほうがいいと言われる理由


貯金への否定的な意見は、感情論ではなく現金そのものが抱える弱点から生まれています。理由がわかれば、どこまで受け入れるべきかが見えてくるでしょう。
インフレで現金の価値が下がる可能性がある
「貯金しないほうがいい」という主張の根拠として最もよく挙げられるのが、インフレによる現金の価値の目減りです。インフレとは「モノの値段が上がり、相対的にお金の価値が下がる現象」を指します。
総務省統計局の消費者物価指数によると、2024年平均の総合指数は前年比2.7%、2025年平均は3.2%上昇しました。一方、日銀の直近公表値によると、2026年6月時点の普通預金金利の平均は約0.254%です。
インフレ率が約3%で預金金利が約0.25%だとすると、実質金利は約−2.75%です。



つまり、預金の実質的な購買力は目減りします。
ただし「インフレがあるから貯金するな」という結論は早計です。生活防衛資金は、実質金利がマイナスでも現金で持つ必要があります。インフレリスクは「余剰資金を投資に回す」動機にはなりますが、生活防衛資金まで投資に回す理由にはなりません。
投資の複利効果を活かせない
複利とは「利益を元本に組み入れて再投資し、利益がさらに利益を生む」仕組みです。現在の普通預金金利は0.2%台前半にとどまるため、普通預金だけでは複利による資産形成効果は限られます。
たとえば、月3万円を年利6%で20年間積み立てた場合、元本の合計は720万円です。月次複利で運用できたと仮定すると、最終的な資産は約1,367万円です。


上のグラフを見てもわかるとおり、複利の効果は後半に集中します。つまり、はやく投資を始めるほど「後半の爆発期」のメリットを長く受けられます。「時間」が複利における最大の武器であり、若いほどその恩恵を受けやすい仕組みです。
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円預金だけに資産が偏る
日本円の普通預金だけに全資産を置くと、資産が「円建て資産」に大きく偏ります。円安は輸入品・エネルギー・食料などの価格が上昇する要因となり、賃金の伸びが追いつかなければ、日本国内での購買力を実質的に押し下げます。



預金の金額が変わらなくても、生活コストの上昇によって「使える量」は目減りしていくのです。
「円だけに偏った状態は安全に見えても、購買力の低下や通貨リスクを抱える恐れがある」点を押さえておきましょう。
貯金しないほうがいいと言われても貯金を優先すべき人


同じアドバイスでも、聞き流してよい人と、真に受けると生活が揺らぐ人がいます。次の3つに当てはまる人は、現金の備えを先に固める段階です。
生活費の3〜6ヵ月分がまだ貯まっていない人
生活費の3〜6ヵ月分に相当する生活防衛資金が貯まっていない人は、まず貯金を優先して現金の備えを整えましょう。急な出費や収入の喪失が起きた際に対応できるバッファーがなければ、投資資産が下落したタイミングで取り崩さざるを得ない恐れがあるためです。
収入の喪失として代表的な例が、転職やキャリアチェンジに伴う退職です。仮に自己都合退職の場合、退職日が2025年4月1日以降であれば原則1ヵ月の給付制限があり、さらに支給は給付制限期間経過後の認定日からです。このような「収入の空白期間」を現金でカバーするのも、生活防衛資金の役割です。
生活防衛資金は普通預金・ネット銀行など、すぐに出金できる場所に置きましょう。
近いうちに大きな支出予定がある人
「近いうちに使い道が決まっているお金」は、投資に回さないのが原則です。
投資は短期的に元本割れする可能性があるため、使う直前に価格が下落していると、損失を確定して売却せざるを得なくなります。金融経済教育推進機構も、投資は「当面使う予定がないお金」で行うことを基本としています。そのため、数年以内に使い道が決まっている資金は預貯金で準備することをおすすめします。


なお「NISAはいざとなれば売却して現金化できる」という考え方にも注意しましょう。



売却自体は可能ですが、相場が下がっているときに売却すれば損失が確定してしまいます。
投資で損をすると生活に支障が出る人
投資には元本保証がありません。損失が「生活に支障をきたすほどの打撃」になる状況であれば、始める前に貯金を優先してください。生活費に余裕がない状態でNISAに投資すると、相場下落時の含み損が家計や心理面を圧迫しかねません。
ただし、現時点で投資に向かない人でも、この先ずっと向いていないわけではありません。生活防衛資金が貯まり、収入が安定し、余剰資金が生まれた段階で投資を始めれば、同じ人でも「投資に向く状況」に変わります。今は貯金優先でも、状況が変われば選択肢は広がるでしょう。
なお、投資が怖いと感じる人は「投資が怖いと言われる理由とは!本当は怖くない理由や始める際のポイントも解説」の記事を参考にしてみてください。


貯金しないほうがいいと感じたら考えたいお金の使い道


生活防衛資金が整い、手元にお金が残ったとき、その受け皿になるのがNISAとiDeCoです。NISAとiDeCoは、目的も引き出しやすさも異なります。両者の違いを見ていきましょう。
NISAを活用した長期投資
生活防衛資金が確保でき、余剰資金が生まれたら、NISAを活用した長期投資は有力な選択肢です。2024年1月から始まった「新NISA」は、投資利益が非課税になる国の制度です。年間360万円・生涯1,800万円まで非課税で運用できます。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間投資上限 | 120万円 | 240万円 |
| 生涯上限 | 1,800万円(成長投資枠と合わせて) | 1,200万円 |
| 対象商品 | 長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 上場株式・投資信託等 |
始め方は、金融機関でNISA口座を開設し、商品を選び、積立金額や引落方法を設定する流れです。投信積立は一度設定すれば自動買付が続きます。SBI証券や楽天証券では100円から積立できるため「まず試しに少額で始めてみる」というアプローチも取れます。
なお、NISA口座は1人1口座のみで、金融機関の変更には1年単位の制約があります。
NISAで何を買うべきかについては「【今から準備】新NISAで何を買うべき?おすすめの投資方法や注意点も紹介」の記事をぜひ参考にしてみてください。


iDeCoを活用した年金運用
iDeCoは、公的年金に上乗せして自分で掛金を拠出し、自分で運用しながら、原則60歳以降に老齢給付金として受け取る私的年金制度です。
最大の魅力は、税制優遇にあります。掛金が全額所得控除になるほか運用益も非課税で再投資され、受け取る際にも退職所得控除や公的年金等控除が適用されます。税制優遇を活かせる人にとっては、通常の貯金だけで準備するよりも、老後資金を効率的に形成しやすい点が特徴です。
一方で老後資金の確保を目的とした制度であるため、原則として60歳になるまで資産を引き出せません。急な出費に対応できない点は事前に理解しておく必要があります。
なお、2026年12月1日には、一定の要件を満たす人についてiDeCoの加入可能年齢が70歳未満に引き上げられる予定です。また、掛金の上限も引き上げられる予定です。老後資金づくりの手段として、活用の幅はさらに広がります。
iDeCoとNISA、どちらにするか迷っている方は「iDeCoとNISAはどっちを選ぶべき? それぞれの特徴や併用するメリット」の記事を参考にしてみてください。


貯金しないほうがいいか迷う人によくある質問


判断の基準がわかっても、最後に残るのは「では自分はいくら現金を残すのか」という具体的な数字の疑問です。ここでは、よくある2つの質問に答えます。
現金はいくら残しておけば安心ですか?
生活防衛資金としての現金は、生活費の3〜6ヵ月分をひとつの代表的な目安とするとよいでしょう。これから貯める人は、まず3ヵ月分を確保し、徐々に6ヵ月分、1年分と増やしていく考え方が現実的です。
単身世帯の場合は、月平均支出を約16〜17万円とすると、6ヵ月分で約100万円が目安と試算できます。総務省統計局の家計調査では、2024年の単身世帯の消費支出は1世帯当たり1ヵ月平均169,547円でした。この金額をもとにすると、3ヵ月分は約50.9万円、6ヵ月分は約101.7万円です。



そのため、まず50〜100万円を目標にしてみるとよいでしょう。
貯金とNISAはどちらを優先すべきですか?
貯金とNISAのどちらを優先すべきかは、家計の状況によって変わります。
まず生活防衛資金を預貯金で確保し、必要な保障や近い将来の支出を確認したうえで、余剰資金でNISAなどの投資を検討する流れが安全です。
生活防衛資金が貯まっていない間は、NISAよりも貯金を優先しましょう。生活防衛資金を確保できたあとに、当面使う予定のない余剰資金でNISAを検討するのが基本です。
投資をこれから始める方は「【FPが解説】投資初心者は何から始めるべき?失敗しないコツや始め方を解説」の記事も参考にしてみてください。


貯金だけでなく投資にも取り組んで将来に備えよう!


「貯金しないほうがいい」という言葉に惑わされず、まずは生活費3〜6ヵ月分の生活防衛資金を確保するのが第一歩です。
その土台ができたら、余剰資金をNISAやiDeCoに振り向け、お金に働いてもらう仕組みをつくりましょう。貯金・投資・自己投資のバランスを意識するだけで、将来の選択肢は大きく広がります。



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